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山田担による沖田総司ポイント その5

前回『山田担による沖田総司ポイント その4』の続きで、今回はついに大本命の沖田総司の淡い恋を描いたエピソードです。

私は自担(山田涼介)が演じていると仮定して読んだら、もうこのエピソードだけで映画一本作れることを確信しました、はい。山田担の皆様はご覚悟あれ。


Episode11『沖田総司の恋』

元治元年(1864年)3月〜

沖田総司ポイント】★★★★★

全ての文章を引用したい気持ちでいっぱいなのですが、それでは意味無いので辛うじてポイントを絞りました。このお話しは大きく分けて五章構成になっているので、その構成ごとに見て行きたいと思います。


◎第一章

(総司が、妙な咳をする)

と土方が気づいたのは、「文久」が「元治」に改元された三月のころからである。(中略)

近藤に話してみた。

「つまり、どういう咳だ」

「さあ。蝶をとってきて、こう、掌に入れて、ぱたぱたさせているような、そんな咳かな」

物語はこんな文章で始まります。「掌の中の蝶のような咳」いかにも土方が思う沖田総司という感じがして天才的な表現だなと。土方の心配をよそに、近藤はこの時点では沖田の咳をあまり心配していないようですね。

この第一章では、沖田総司の生い立ち、近藤・土方との関係が描かれています。例えば、近藤と土方は沖田を実の弟のように思っていたこと。沖田の実姉のお光は婿養子をとって沖田家をついでいるが、その婿は井上源三郎(沖田らと同門で新選組の初期メンバーでもある)の実家から来ていること。つまり、近藤、土方、沖田、井上は何らかのかたちで遠縁近縁の親戚のような感じで「義兄弟」であり、その友情なるものは大変に深かったということが分かります。

総司の姉のお光は、総司が近藤らと共に江戸を出発するとき、まだ幼な顔のぬけない総司が、ひとり家元を離れるのを不安がり、総司にもあらためて手をつかせて、近藤と土方に弟を宜しくと頼みます。

━━━ 総司さん。若先生(近藤)を父、土方さんを兄と思ってお仕えしますように。とお光はさとした。

「いやだなあ」

総司は、頭をかいて照れくさがったが、近藤、土方は大まじめで、

「実の弟以上の気持ちで、お引きうけします」

といった。

ここからも、この3名の繋がりがいかに深いものか、何ならこの3名は運命共同体なのではと思ってしまうくらいの関係性が伺えます。

第一章の最後の方に、沖田総司の人柄が手に取るように分かる部分があるので以下に一部抜粋してこの章を終わります。

何万人に一人という天稟を持って、沖田は生まれついていた。沖田総司にもし欲があれば、一流を樹てることもできたし、江戸で道場の一つも持って門人を取りたてることもできた。

が、この奥州浪人の遺児は、欲というものを置きわすれてこの世にうまれてきたような若者であった。おもしろい話しがある。土方歳三の長兄為次郎というひとは盲人であったために家督を弟嘉六にゆずり、自分は早くから石翠と号して隠居し、素人ばなれした義太夫を在所在所に教えて歩いたり、俳句をつくったり…した世外人だったが、この石翠が沖田を少年のころから可愛いがり、「総司のやつの声をきくと、おらァ、物哀しくなるんだよ」と言い言いした。

━━━ 物哀しい。

といってもべつに陰気な声というわけではない。どちらかといえば、ふわっとした丸味のある、明るすぎるほどの声なのだが、声に、性根のあくがなかった。無欲すぎるのである。


◎第二章

この章は、元治元年(1864年)6月の池田屋斬り込みの際に病状が突如悪化し、その後、単身で医者に診てもらいに行った際にその医者の娘のお悠に淡い恋心を抱くまでが描かれています。

はい、この辺りからもう脳内で変換再生するとエラいことになります。前半は沖田総司の華麗な剣さばきに射抜かれ、後半はピュアな沖田きゅんに胸がギュンッッッとなります。

場面は池田屋の斬り込みから始まります。頁数にすれば2ページ程ですが沖田の剣の腕前が並外れたものである事が十二分に分かります。戦闘の序盤、階下(つまり1階)でたった一人沖田は闘います。ここで、あの有名な「沖田総司の三段突き」が登場するのです。

どん、と足を鳴らして踏みこんだときには腕はのびきり刀は間合を衝いて相手を串刺しにした。沖田の突きは、三段といわれた。たとえ相手がその初動の衝きを払いのけても、沖田の突きは終了せず、そのまま、さらに突き、瞬息、引く。さらに突いた。この動作が一挙動にみえるほど速かった。

逃げる敵を追って、真暗な裏庭にとびおりた沖田は、死体につまずいて転んでしまいます。起き上がったその時、経験したことのない悪寒を覚え、膝から崩れます。

生温かいものが、気管の奥からこみあげてきた。総司は咳きこもうとして、刀を地上に突きたて、体をささえた。

(死ぬ。━━━━)

と思った。

…この先もまるごと引用したいのですが、兎にも角にも沖田はその後、吐血し気を失います。(詳しくは実際に書籍でご確認下さい!)

 

数日、沖田は隊で寝た。喀血のことはだれにもいわず、「あれは返り血ですよ」といってすましていた。隊士の傷手当てについては、討入りの翌早暁に会津藩から外科数人がきて治療したが、総司の体には手傷がない。

周りを心配させまいと見栄を張ってしまう、いかにも沖田総司らしいですよね。この「らしさ」は『燃えよ剣』でも多く出てきますので、そちらでも書ければと思ってます。そして、二時間に及ぶ戦闘で無傷の沖田総司、恐るべし。


その翌日、見舞いにきた会津藩の公用人外島機兵衛が近藤に「沖田はひょっとすると労咳ではないか」と言います。そして、外島は医者に頼んでおくから沖田を通わせたほうがよいのではないかと言い添えます。もちろん、近藤も外島も沖田があの斬り込みの夜の大喀血を知りませんから、まぁ急ぎではないとたかをくくっていました。土方も池田屋の事後処理に忙殺され、沖田を気づかっているゆとりはありませんでした。

 

十日ほど経って気分がよくなったらしく、むくむくおきあがってきてしばらく屯営内を歩いていたが、やがて、ちょっと外へ出るから、と朋輩に言い残して、元気で出た。

━━━どこへ行く。

とは、たれも訊かない。それほど沖田の態度は明るくて、自然だった。

沖田は、屯営を出ると、急に懶(ものう)そうな歩きかたになった。

さて、彼はどこに行くのでしょうか…そう、沖田は医者のところへ行くのです。外島が話しているのをおそらく寝床から聞いていた沖田は、近藤と土方を心配させるのは嫌だと思い、何も言わずに外に出たのです。

そして、病院の門前まで来たは良いものの、人見知りのひどい沖田は入るのをためらってしまいます。その時背後から、娘が「なにか、ご用でございますか」と声をかけます。

ここからがもう、5歳児総司きゅん…「いえ、ち、ちがいます」とあわてて引き返しちゃうんですよ…二十歩ほど引き返して、とまった沖田はまた振り向きます。そうすると先ほどの娘さんがくくっと笑うのです。沖田は、大いそぎで戻って娘さんの前を素通りして門を入ります。しかし、失礼だと思ったのか、あきれている娘さんに「患者です」と当たり前過ぎることを言っちゃうんです。

何コレ…はじめてのおつかい?八百屋の前まで行ったけど、緊張してお店のおばさんに「イチゴ下さい」って言えなくて、走って家に引き返そうとするけどママとの約束を思い出して、意を決して戻ってきたら開口一番「僕はりょうちゃんです」って言っちゃうアレだよね?(混乱)(落ち着け)

娘は微笑してうなずいてくれた。うなずくと、細長なくせに、あごがくくれた。形のいい唇をもっている。

「あの、先生に取りついで頂けませんか。会津藩公用人外島機兵衛どのからお話は通じてもらっていると思いますが。━━私、沖田といいます。あの、総司ですが」

総司ですが。といったとき、沖田は、ぱっと陽が射すように微笑った。なんだか子供のようなひとだ、とお悠はおもい、上眼でうなずいてやった。

恋が…恋が、始まる音がした。司馬遼太郎先生、天才か。顔の全体から唇にフォーカスして、沖田の目線がそう動いたことを暗に示し、そんな自分に無意識に動揺しているであろう沖田きゅんの台詞がまた絶妙にどぎまぎしてますよね。沖田、または沖田総司と名乗れば良かったのに。最後に「あの。総司ですが」が堪らん。更に、追い打ちをかけるように「総司ですが」と言った時の沖田の顔はぱっと明るくなり、あの天使のような微笑みを見せるところまでセットでまさに三段突きされた気分です。


そして、沖田は医者に診察をしてもらいます。医者は沖田のことを会津藩の武士だと思っています。沖田も新選組の者であると言おうとしますが、京での評判があまり良くないことを知っているためそのまま話を合わせます。おそらく、近藤や土方ならすぐに新選組だと名乗ってしまいそうですが、利口なこの青年は自分たちのことを客観視出来ているというところが、また泣ける。

問診の時も、池田屋ではなく、道場での稽古中に吐血したと嘘をつきます。すると医者は…

「あれは、いけない。(中略)どうせ大した素質があるわけではなかろうから、さっさとおやめなさい」

「はあ」

「薬は、差し上げる。しかしかんじんなことは、風通しのいい、直射のささぬところで寝ていることだ。これをまもるなら、薬を差し上げる。守らないなら、むだだ。どうです」

「ええ」

微笑した。守れるはずがない。

「ちゃんと臥ています」

(いい若者だな)

そんな眼を、玄節(医者)はした。

お医者さん、今あなたの目の前にいるのはあの天才剣士沖田総司ですよ…いやぁ無知って怖いです。が、しかし!そう沖田きゅんは良い若者ですよね!わ・か・る!(固い握手)

 

◎第三章

この章は、土方が沖田の異変に気付きはじめます。もしかしたら好きな女性のところへ通っているのではないかと疑いをもった土方は、ある日、沖田が出掛けようとするのを引き留め、どこに行くのかと尋ねます。沖田は「清水寺に紅葉を見に行く」と答えるので、土方はついて行く事にします。

「おれもゆく」

と土方はいって、意地わるく沖田の顔を見た。ありありと狼狽している。土方は、沖田が清水にゆくのではないとみていた。

「さあ、行こうじゃないか」

沖田はやむなく、土方のあとについて壬生の屯営を出た。

もう!お兄ちゃんったら心配なのは分かるけどぉ…。まぁ、お光お姉さんに大事な大事な弟を頼まれてるから仕方ないとは思うけどぉぉ、総司きゅんを困らせないでよぉ(モンペ)

2人は清水の舞台に出て、眼科の美しい自然を眺めます。喜んだ土方は

「京にきてから来るのははじめてだ。お前のうそのおかげだよ」

「うそじゃありませんよ」

沖田は、はえぎわのきれいな太い眉をさげ、やるせなさそうにいった。

「知ってるさ。お前の清水は、もっとお白粉臭えところだろう」

(あ。━━━━━)

と、沖田はうれしそうな顔をした。土方が気づいていないことを知ったのである。

ギュンッッッ…初めは自分の病気のことを疑われているんだと思ってたけど、土方のお兄さんが違う心配をしていた事がわかってホッとしている沖田きゅんがいい子過ぎて辛い。


その後、2人は茶屋でひと休みします。土方が自生の俳句を沖田に聞かせようとすると、何やら沖田は店の外を眺めて自分の話を聞いていません。彼の視線の先には、1人の娘がいました。はい、この娘さんこそ、あの時のお悠です。沖田はお悠が、八のつく日に清水の音羽の滝に水を汲みにいくことを医者で聞き、自分も通っていたんです。でも、滝には行かず、滝が見える茶屋の奥まった先から盗むようにお悠の姿をみていたのです。

沖田きゅんのその性格と美貌なら、そんなことせんでも良いのに、まるで平安時代の垣間見…なんて美しくも儚い恋心なの…尊い

土方のお兄さんは、瞬時に沖田きゅんが、お悠のことが好きだと気付きちょっかいを出し、それに慌てて笑った沖田の声にお悠が気づいてしまいます。

「沖田様。このようなところまでお歩いになっていいのでございましょうか。父は、お寝みになっているように、と申していたはずでございますのに」

(妙だな)

土方は思った。沖田は、近藤や自分の知らないところで、別な生活をもっているようなのである。

「ええ」

顔をまたあからめた。

「たまに、気晴らしだと思いまして」

「いつもは、お寝みでございましょう」

「寝んでおります」

(なにを言ってやがる)

土方は思った。昨日も、自分と巡察に出て(中略)浮浪の士三人を斬ったばかりではないか。

「それならよろしゅうございました。すると、ときどき、この音羽の滝まで、ご気分晴らしにいらっしゃいますの」

「ええ、ときどき」

沖田はしばらくだまっていたが、やがて勇を鼓したような勢いで、

「八の日のこの刻ぐらいにきます」

「━━━」

お悠は、だまった。

ギュンッッッ!山田担の皆さん、これ自担で脳内変換再生してみて下さい…(墓建)

沖田きゅんにとって、ものすごい勇気がいる事だったと思うんです。もしかしたら自分の気持ちが伝わらないかもしれない、もし伝わったとしても医者で会っただけの関係で驚かれてしまうかもしれない。しかも、何か分かんないけどついてきた土方のお兄さんもそばにいますしね!


帰り道、土方は沖田に結核だったのか聞きますが、沖田はきっぱりと違うと答えます。しかし、土方はただの風邪で医者に頻繁に通うのは不自然なことから結核だと確信します。

「なんでも相談してくれないとこまる」

「そうします」

「それとも、あの娘がめあてかね」

「ち、ちがいます。━━━ あんな」

「あんな、なんだ」

「あんないい娘が、私になんぞ、好いてくれるものですか」

カァァァァーー!!もうこの感情は言葉に出来ない。健気や(滝涙)

土方は、沖田にあの娘を嫁に貰えと助言します。沖田は嫌だと断ります。自分は新選組だと医者にすら言っていない、ましてやあのお悠にそんな事を知られたくないと思っているのです。そんな、沖田の気持ちを微塵も理解できない土方は、近藤にある話しを持ち掛けてしまうのです…

 

◎第四章

この章は、土方が近藤に相談して、お悠を沖田のお嫁に貰いにいしゃのところへ行こうとするという章です。まったく、お兄さんは二人して本当に余計なことをやってくれてます。だけど、二人にも悪気は全くないんですよ、寧ろ沖田を想うからこその行動なんですけどね…しかも、これが沖田のいないところで話が進んじゃってるから、可哀想な沖田きゅん…


◎第五章

そして、近藤は医者のところへ出向いて、娘さんを沖田にくれと頼んでしまいます。医者は驚き、丁重に申し出を断ります。

沖田にとっても、このこのは寝耳に水のようなものであった。(中略)

沖田は、半井玄節や、お悠に、この先輩たちのふるまいがはずかしかった。

(もう、半井家には行けない)

冷汗が、背をびっしょりと濡らしている。はずかしいというよりも、もうお兄さんとのこともコレでおしまいだ、と思うと、眼のさきが昏くなる思いだった。

「総司、おきらめろよ」

近藤は、とりなし顔でいっている。かんちがいもはなはだしい、と思った。

「(中略)敵城の娘に惚れたようなものだ。ここは武士らしくあきらめてくれんか」

「ちがうんです」

沖田は必死な顔でいった。(中略)

「いや、ちがうんです。私はただ、あの娘をつまり、遠眼でみているだけでよかったんです。━━━それを」

言おうとしたが、言葉にならなかった。

こうして沖田の儚い恋は終わってしまうのです。なんて神様は意地悪なんだ…沖田きゅんが天使のように美しいから?それとも、そんな純粋な青年が苦しむ姿を見たいから?(ジャニーさんか)

今回ばかりは近藤・土方、許すまじ(真顔)

 

沖田はその後、おそらく一度も女性と縁を持たずに病気が悪化しひとり息を引きとります。『燃えよ剣』のネタバレになってしまうのですが、沖田の最期を描くエピソードのなかに

━━━死ねば。

と総司は考えている。

(たれが香華をあげてくれるのだろう)

妙に気になる。くだらぬことだ、と思いつつ、そういうひとを残しておかなかった自分の人生が、ひどくはかないもののように思えてきた。

とあります。激動の時代の中、兄弟と慕った人を信じて、若くして京にわたり、人を斬り、ひとり死んでゆく…確かに、ここまで儚いという言葉が似合ってしまう人生もそうないのかも知れません。

個人的にはこの「儚さ」が私がアイドルである山田涼介が内包しているまさにそれで、それに気付いてから沖田総司と切り離す事が出来なくなりました。

おそらく、沖田総司も天使のような明るさのなかに一瞬の哀しさを内包しているキャラクターだからこそ、魅力的なんだと思います。だから、この沖田くんの初恋が実らなくて良かった。それが、また沖田くんを強く儚くしていくために必要な要素だと思うから。


原田監督、山田さんでスピンオフ作る時は是非このエピソードも入れて下さい(深々)


いつもの事ながら、最後は脱線してしまいましたが今回はここまで。血風録も残すところあと4エピソードです!

 

【引用】

司馬遼太郎新選組血風録』新装版(角川文庫)