山田担による沖田総司ポイント その3
前回の『山田担による沖田総司ポイント その2』の続きす。
Episode05『鴨川銭取橋』
慶応2年(1866年)9月28日
【沖田総司ポイント】★☆☆☆☆
沖田総司は一瞬しか登場せず、台詞もありません!以上!
物語自体は、新選組五番隊長の座にあった武田観柳斎が新選組を抜け、薩摩藩に乗り換えようとするも、土方ら幹部に見抜かれ、銭取橋で斎藤一に斬殺されるというお話です。主人公の武田vs土方・山崎の攻防が楽しめる作品だと思いますので、興味がある方は是非。
Episode06『虎徹』
【沖田総司ポイント】★★★☆☆
その名の通り、近藤勇の愛刀「虎徹」について少し皮肉も交えながら描いたお話です。個人的に興奮したポイントは以下に記す一番面。
文久三年の新選組発足当時、近藤は、山南敬助、沖田総司らと共に市中巡察に出ます。辺りが暗くなって来たので、近藤は下僕の忠助に提灯に火をつけるよう命じましたがなかなか上手くつきません。近藤らがイライラし始めたその時…
横からのぞいたのは、沖田総司である。気さくな男だから
「よしよし、そこのすし屋で火をもらってきてやる」
と、あたりを見まわした。
惚れた。そんな沖田がやらんでもええのに…しかも、その火の貰い方がまた素敵なんです。
その軒行燈をはずせば用が足りるのだがわ沖田は妙に丁寧な男で、亭主にことわるためにガラリと格子戸をひらいた。
(中略)
「いや、これはおそろいのところ恐縮です。じつは亭主にたのんで提灯の貰い火をしようと思いましてね」
外見もさることながら中身も紳士だなんて、惚れた(2回目)まぁ、たしかに丁寧過ぎるとは思うけど…笑
んでもって、そこのおすし屋さんにいたのが武士5名なんですが、どうやら密議って感じで怪しいなと沖田はおもっていたところ、先方から「何藩だ」と聞かれちゃうんですね
「おどろいたな」
沖田は、笑った
「京では、すし屋に入っても、何藩の何某であると名乗るのですか」
「不審があるからだ」
「いやだなあ」
沖田は、亭主から付木をもらい、その硫黄くさい焔をタモトでかばいながら、
一瞬、シンとした。が、浪人たちはすぐ色をとりもどして、それぞれが刀をひきよせた。相手は一人だ、とタカをくくったのだろう。
「待った」と沖田はいった。
「店が迷惑する。やらなら表へ出なさい。名乗った以上は、存分にお相手します」
ギャップよ…普段は「〜だなあ」と可愛らしい語尾(これが土方の前だと「〜だなぁ( ◜◡◝ )」になるからもっと可愛い)なのに、名乗った後は一隊士として振る舞う感じが堪らん。けど、口調はいつも通りで穏やかに笑ってるんだろうなぁ。
その後、相手の年頭の武士が他の武士を止め、沖田に軽く頭を下げて無礼を詫びます。
「そうですか」
沖田は、後ろ手で格子戸をあけながら、
「いいんですよ、わかってもらえば。またお会いするときがあるでしょう、あいさつはそのときに」
あくまでも火を貰いに立ち寄っただけですからね。対応もスマートで惚れた(n回目)
惚れたを連呼して終わりました。これ以降、沖田はそこまで登場しませんが近藤さんの人柄が分かって面白いと思います。
Episode07『前髪の惚三郎』★★★☆☆
元治元年(1864年)頃?
あらすじは省略しますが、いわゆる衆道(BL)のお話です。ポイントとなる場面ははざっくり分けて2つです。
ポイント①
ある日、土方が沖田を尋ねて一番隊の控え室に足を運ぶ場面。
「沖田君はいるかね」(土方)
この隊の隊長(組長)である。
が、この若者は、一番隊という近藤の親衛隊をあずかる身でありながら、どこか飄々としていて、ほとんど、自室におさまっているということがない。
「さっき、門外に出られたようですが」
(こまった男だ)
土方は外へ出た。
その後、土方は沖田を探しに近くの川の方へ向かいます。すると…
その堀川で、村童が雑魚とりをしていた。川っぷちに、沖田総司がしゃがんでおり、村童たちとしきりにやりとりをしていた。
「総司。━━━」
沖田は、まぶしそうに眼を細めてふりむいた。
「なにをしている。童(わっぱ)に遊んでもらっているのか」
「いやだなあ。こんな子供達に遊んでもらってもちっともおもしろくない」
そのくせ、沖田というこの奇妙な若者は、隊の大人どもと無駄ばなしをしているより、子供と一緒に凧をあげたり、関東の石蹴りをおしえたり、京の「鼻鼻」という遊戯をおしえてもらったりしたあそんでいるほうが、好きらしい。
子供と楽しそうに遊ぶ沖田きゅん、天使。子供達はこの目の前にいる青年が、京を震え上がらせている新選組の主戦力、あの沖田総司だと知ってるいるのでしょうか。この場合、そうか否かは問題じゃないですよね…私が子供なら多分、目の前にいる色白で無垢で優しい笑顔を浮かべるお兄ちゃんを疑う余地もない気がします。(実際に、沖田総司は子供達とよく遊んでくれたというほっこりする史実もあるようです)
余談ですがこの時、沖田は子供たちに小魚を獲ってもらっていました。土方がそれをどうするのかと尋ねると「食べるんです」と答えます。土方は、この小魚を骨まで食べられるように飴煮にしてもらうんだろうと想像します。すでに、沖田の身体の調子が良くないことを知っているのです。
その後、土方は本題(加納惚三郎と田代の色恋沙汰について)を切り出します。
「田代と、加納惚三郎のことだが」
「ああ、あの一件か」
沖田は、水面をみながら
「あの一件は、私はにが手ですよ。男がおとこを追っかけるなんて、私にはわからないな」
(中略)
「腕は、どちらができるだろう」(土方)
「加納惚三郎ですよ」
これは、沖田総司は断固といった。沖田のそういう目筋は、近藤や自分でも及ばないことを、土方は知っている。
どうやら、沖田はこの様な色恋沙汰は好きではないようです。こうやって沖田きゅん自身は色恋沙汰とは無縁というか、俗世と離れたところで生きているように描かれていることにわ不思議な魅力を感じます。これについては『燃えよ剣』の方でも書きたい。
それから、剣の腕前を見抜く力はピカイチということも分かって痺れますよねぇ…。
ポイント②
物語も終盤、加納は心を通わせていた田代を斬るように命じられます。その際、介添役として土方と沖田がつくことになりました。
「来た」
と、沖田がいった。沖田はこの夜、体でもわるいのか、声に元気がない。というよりは、ほとんど黙りこくっていた。ただひとことだけ、土方に囁いた。
「私は、あのふたり、どちらも嫌いだな、顔を見るのも。そうだな、声をきいてさえ、こう、ぞっとする。土方さんは、どうです」
衆道好きじゃないというか、めちゃくちゃ嫌いじゃん(笑)。いやでも、それで正解!沖田きゅんは汚れちゃいかんのじゃ!(必死)
その後、加納は田代を鴨川の四条中洲で討ちます。
土方と沖田は、だまって現場を離れた。草を踏み、やがて砂地を踏み、さらに西の橋を渡りおわったとき、沖田はふと立ち止まった。
「そうだ」
と、この男はつぶやくようにいった。
「用を思い出した。ちょっと中洲までひきかえします。」
この男の用がどういうものか土方にはわかっている。
最初に読んだ時に震えました。屈折した加納の心はその身体と共に、真っ直ぐな狂気を内包した沖田によって葬られる。この話の主人公である加納の結末を間接的に描くからこそ、より深く印象付けられますよね。
そして、最後はこの中では一番人間臭い土方が(化け物め)と桜の若木を切る場面で終わるのです。ここまでセットで最高。土方自身はおそらく加納のことを化け物と表現したのだと思いますが、私には加納と沖田というある意味、人間離れしたアンバランスさを持ち合わせた二人について行けない我々読者を土方がその剣によって代弁してくれるように感じました。
というわけで今回はここまで。
次回は『胡沙笛を吹く武士』『三条磧乱刃』『海仙寺党異聞』くらいまで書きたいなと思ってます。